成年後見と遺言の制度が変わります(令和8年法律第45号)
2026年(令和8年)6月17日、成年後見制度と遺言制度を見直す法律が国会で成立し、6月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。
ただし、まだ施行されていません。いつから新しい制度が使えるようになるかは、これから政令で決められます。目安は次のとおりです。
| 内容 | 施行の時期 |
|---|---|
| 成年後見制度の見直し | 公布から2年6か月を超えない範囲で、政令で定める日 |
| 遺言の押印の見直しなど | 公布から1年を超えない範囲で、政令で定める日 |
| 保管証書遺言の創設など(システムの改修が必要なもの) | 公布から3年を超えない範囲で、政令で定める日 |
つまり、今日ご相談いただく案件には、まだ現行の制度が適用されます。ただ、これから遺言や後見を検討される方にとっては、「もう少し待ったほうがよいのか」「今のうちにやっておくべきか」の判断材料になります。ここでは要点を整理してご説明します。
第1部 成年後見制度の見直し
「後見」「保佐」がなくなり、「補助」に一元化されます
現在の成年後見制度は、判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つに分かれています。判断能力を欠く常況にあると認定されると、後見しか選べず、後見人が包括的な代理権と取消権を持つことになります。
これが、次のように変わります。
後見と保佐の制度を廃止し、補助の制度に一元化する(民法7条・9条・11条)
補助の開始には、①判断能力が不十分であること ②本人の同意 ③制度を利用する必要性 の3つが要件になります。そのうえで、必要な行為ごとに個別に、補助人に代理権を与える審判や、補助人の同意を要するとする審判をします。
「遺産分割をするために後見人を付けたいだけなのに、生活のすべてを管理されることになる」という状況が避けられるようになります。
なお、判断能力を欠く常況にあると認定される場合には、例外として、法定の重要な財産行為をいずれも取り消せる仕組み(特定補助の仕組み)を選んで利用することもできます(民法10条)。
「一度始めたらやめられない」が変わります
これが、ご相談の現場で最も大きな変化です。
現在は、利用のきっかけになった手続き(たとえば遺産分割)が終わっても、判断能力が回復しない限り、制度の利用をやめることができません。そのため報酬も本人が亡くなるまで発生し続けます。「後見はやめたほうがいい」と言われる最大の理由がここにありました。
改正後は、こうなります。
判断能力が回復していない場合でも、制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立て又は職権により、制度の利用を終了することができる(民法12条)
あわせて、補助人には家庭裁判所への年1回の状況報告が義務づけられます。その報告の際に必要がなくなったと認められれば、職権で終了させることもできます。
なお、「〇年ごとに更新する」という期間制は採用されていません。検討の過程では議論されましたが、成立した法律は「必要がなくなったら終了できる」という仕組みです。
そのほかの主な変更
| 内容 | 条文 |
|---|---|
| 家庭裁判所が補助人を選ぶ際に考慮する要素の冒頭に「本人の意見」を置く(現行法では最後に規定) | 民法876条の2 |
| 解任事由に「本人の利益のために特に必要があるとき」を追加。横領などの不正がなくても、面談をしないなど本人が適切な保護を受けられないときは交代させられる | 民法876条の5 |
| 補助人が職務を行う際、本人に情報を提供し、本人から話を聴くなどして意向を把握する義務を明確化 | 民法876条の11 |
| 報酬を決める際、補助人が行った事務の内容が考慮要素であることを明確化。報酬が認められた事案の実績が公表される予定 | 民法876条の19 |
| 死後事務の権限を拡充(火葬・埋葬に関する契約、未払金の支払など) | 民法876条の26 |
任意後見についても、監督人を選任せずに家庭裁判所が直接監督できる場合を設けるなどの見直しが行われます。詳しくは任意後見制度のページもご覧ください。
いま後見・保佐を利用している方はどうなるか
原則としてそのまま継続できます(改正法附則2条・3条)。新しい制度に移りたい場合は、補助の開始を申し立てたうえで、従前の審判を取り消すことになります。成年後見制度全般については成年後見のページ、種類の違いは成年後見制度の種類のページで解説しています。
第2部 遺言制度の見直し
押印が要らなくなります
自筆証書遺言は、これまで全文を自書し、日付と氏名を書いて、押印する必要がありました。この押印が任意になります。
自筆証書遺言、秘密証書遺言、特別の方式の遺言における遺言者及び証人等の押印要件を廃止し、押印を任意とする(民法968条・970条・976条・979条・980条)
遺言書を書き直すとき(加除その他の変更)の押印も任意になります。
押印を忘れたために遺言が無効になる、という事故がなくなります。「印鑑がどこにあるか分からない」「手が不自由で押印が難しい」といったご事情の方にも大きな意味があります。
なお、公正証書遺言の押印は、2023年(令和5年)の公証人法改正で既に廃止されています。遺言の種類については遺言の種類のページをご覧ください。
「保管証書遺言」という新しい方式ができます
まったく新しい遺言の方式が創設されます(民法968条の2・968条の3、遺言書保管法7条〜13条)。
遺言の内容を記録したデータ等の保管を法務局に申請し、本人が遺言の全文を口述するなどして、法務局が遺言を保管する方式
特徴は次のとおりです。
- パソコン等を用いて作成できます(手書きでなくてよい)
- オンラインで保管の申請ができます
- 遺言書保管官が相当と認めるときは、ウェブ会議を利用できます
- 遺言書保管官が本人確認を行うため、第三者のなりすましを防げます
- 遺言者が全文を口述することで、本人の真意に基づかない遺言が作られることを防ぎます
- 口がきけない方は、口述に代えて通訳人の通訳や自書によることができます
- 遺言者が指定した方に、遺言の存在が通知されます
- 相続開始後、相続人等は遺言書の証明書の交付を請求できます
- 家庭裁判所の検認は不要です
自筆証書遺言書保管制度(法務局で自筆証書遺言を預かる現行の制度)についても、オンラインでの保管申請や証明書の交付請求ができるようになるなど、手続きのデジタル化が行われます。詳しくは遺言書の保管と執行のページもご覧ください。
高齢者施設への遺贈を考えている方は要注意です
見落とされやすい、しかし実務に直結する改正があります。
証人等の欠格事由の範囲を拡張し、受遺者だけでなく、その被用者(受遺者が法人の場合にはその被用者及び役員)も欠格事由とする(民法974条)
これまでは、遺贈を受ける法人の従業員は証人になれました。改正後はなれません。
お世話になった高齢者施設や法人に財産を遺したいとお考えの場合、その施設の職員の方に証人をお願いすることができなくなります。遺言を作る際は、証人をどなたにお願いするかを早めにご検討ください。
緊急時の遺言も変わります
死亡危急時遺言(民法976条の2)
- パソコン等で作成したデータを遺言とすることができるようになります
- 遺言を作成する状況を録音・録画することにより、証人1人以上の立会い(ウェブ会議の利用も可)で作成できる方式が追加されます(現行は証人3人以上)
船舶遭難者遺言(民法979条・979条の2)
- 作成できる場面に、大規模地震等の「天災その他避けることのできない事変」が発生した場合が追加されます
- 録音・録画により証人1人以上の立会い(ウェブ会議可)で作成できる方式と、録音・録画したものを特定の方にメール等で送信することにより証人の立会いを不要とする方式が追加されます
いま、何をしておけばよいか
| ご事情 | 考え方 |
|---|---|
| 遺言を作りたい | お待ちいただく必要はありません。保管証書遺言が使えるようになるのは早くても数年先です。その間にご本人の判断能力が低下すれば、遺言を作れなくなります。現行の公正証書遺言等で作成しておき、必要があればあらためて作り直すのが確実です |
| 後見の申立てを迷っている | 遺産分割などやるべき手続きが決まっている場合は、待たずに進めてください。施行は最長で2年6か月先です。ただし「終了できるようになる」という見通しは、ご家族の判断材料になります |
| すでに後見・保佐を利用している | そのまま継続されます。新制度への移行をご希望の場合は、施行後にご相談ください |
| 施設等への遺贈を考えている | 証人の選び方が変わります。作成の時期とあわせてご相談ください |
制度が変わるからといって、対策を先送りにされることはおすすめしません。判断能力があるうちにしかできない手続きが多くあります。
奈良相続・遺言相談センター(司法書士法人・行政書士法人LSRコンサルティング)
遺言・成年後見のご相談は初回無料です。
ご予約:0120-324-575(受付時間 9:00〜18:00 土日祝は要相談)
出典:法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」(2026年9月確認)





































